桜の花びら舞う頃に
小さな机や椅子が並ぶ教室、そしてそれに座る小さな子供たち。

この空間にいると、自分がまるで巨人にでもなったのではないかという錯覚に陥りそうになる。

壁には、明るい色彩で作られた、いくつもの掲示物が張られている。

様々な色紙で作られたその掲示物は、ゾウの形をしていたり、キリンの形をしていたり、はたまたリンゴの形をしていたりと、見た目にも楽しい。

悠希は不思議と優しい気持ちになる自分を感じていた。

黒板を見れば、おそらく上級生が書いてくれたのだろう。



『1ねんせい ごにゅうがく おめでとう!』



と、これまたカラフルなチョークで大きく書かれており、ニッコリ笑う男の子と女の子の絵も一緒に描かれていた。


初めて訪れた教室で自分の席に座る子供たちは、どことなく落ち着かない様子だ。

教室の後ろに並ぶ親の姿を探し、見つけては手を振ったり、机の上に置かれた教科書やノートをペラペラめくったりしている。

拓海も例外ではなく、ニコニコしながら珍しそうに周りを眺めていた。


親は親で我が子の晴れ舞台を逃すまいと、デジカメのビデオ撮影に熱を入れている。

悠希も、やはり周りの親と同じ様に拓海の姿をデジカメで撮影していた。


「俺が入学する時は、こんなに撮影してる人はいなかったな……」


ふと、自分の小学校の入学式のことを思い出し、苦笑まじりにつぶやく悠希。

今は撮影していない人の方が珍しいくらいだ。

時は流れているんだということを実感させられる悠希だった。


「この姿……あいつにも見せたかったな……」


不意に、目頭に熱いものがこみ上げる。



< 10 / 550 >

この作品をシェア

pagetop