桜の花びら舞う頃に
玲司は言葉を続ける。


「あんなもので殴られたら……下手したら死ぬぞ!!」


その言葉に、エリカは思わず自分の顔を両手でおおう。

その身体は小刻みに震えていた。


「違う……」

「何が違うってんだよ!!」


玲司は苛立ちを隠そうともしない。


「アタシ……こんなことになるなんて……思ってなかった……」


エリカは両手で自分の肩を強く抱く。


「アタシのせいじゃない……アタシは……こんなつもりじゃなかった……」

「ふざけんなっ!!」


玲司は手を振り上げる。

反射的に目をつぶるエリカ。





……しかし





その手は振り下ろされてこなかった。

恐る恐る目を開けるエリカ。

そこには、振り上げた玲司の手首を、強く握りしめる悠希の姿があった。


「悠希……!?」

「もういいよ、玲司」


悠希は、優しい声で言った。


「彼女も、十分反省してるみたいだし」

「いや、コイツには一度キツく……」

「それに……!」


悠希はアゴで後ろを指す。


「また、警察の世話になるぞ?」


その言葉に、ハッとする玲司。

見れば、警官が数人こちらを見ている。

玲司は、自分を見ている警官たちに愛想笑いを返した。



悠希はエリカに向き直る。


「今回はこれで済んだから良かったけど……」


悠希はゆっくり玲司の手を離す。


「でも、もう二度とこんなことしないでくれ」


悠希は、子供を諭すように優しく、しかし力強く言った。


「甘い! 甘いな、悠希! エリカはこれくらいで反省するようなヤツじゃない!」


まくし立てる玲司。







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