桜の花びら舞う頃に
見れば、1枚の画用紙では伝えきれなかったのだろう、拓海は2枚目の画用紙を取り出した。


「よほど伝えたいことがあるのねぇ」


保護者たちの間でクスクスと笑い声が起こる。


「た~め……」



2枚目の画用紙には、たくさんの動物に囲まれた拓海と祖父母の姿が描かれていた。

拓海は言葉を続ける。



「パパは、ご用があって行けなかったから……」



その時、拓海の様子がいつもと違うことに悠希は気が付いた。





「今度は……」




「僕と……」




「パパと……」






一瞬、下唇を噛む拓海。






そして━━━





「……ママの3人で……行きたいと思います」





小首をかしげ、微笑む拓海。

しかし、それは寂しさを押し殺した時の微笑み方だということを悠希は知っていた。



「た~……」



拍手が巻き起こる教室。

しかし、悠希だけは拍手をすることも忘れ立ち尽くしていた。


画用紙の中心で、寄り添って立つ拓海と祖父母。

本来なら拓海と悠希、そして由梨の姿を描きたかったに違いない。

悠希は、自分が深い海の底に沈んでいくような息苦しさを覚えていた。



「は、はい、良くできました」



さくらも、拓海の言葉に戸惑いを隠せない様子を見せる。

しかし、そこは何とか平静を装い、場を収めることが出来た。



拍手を浴びながら席に戻る拓海。

隣りの子と話すその笑顔は、いつもの拓海と変わりないように見える。





しかし━━━





悠希は、先ほどの拓海の言葉を思い出し、胸を強くつかんだ。




(ママ……か……)




悠希は、無意識のうちにさくらを見つめていた。











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