桜の花びら舞う頃に
開け放たれた教室の窓からは、少し夕方の香りを含んだ風が流れ込んでくる。


「少し寒いですね」


さくらは、そう言うとゆっくり窓を閉めた。


悠希とさくら、2人だけの教室。


他の保護者たちは、皆、図書室へと我が子を迎えに行っている。


先ほどまでは狭く、小さく感じられた教室。


2人きりになった途端、それは広く、大きく感じられた。







さくらが、悠希を教室に残した理由。

悠希には、おおよその予想はついていた。




(たぶん……授業参観の時のた~の発言だろうな)




その時、さくらが不意に口を開いた。



「先ほどの拓海くんのことなのですが……」



果たして、悠希の予想は当たっていた。

自分の予想が当たっていたことに、思わず苦笑する悠希。



「ご……ごめんなさい!」



しかし、さくらはそれを自嘲的な笑いと受け止めたようだった。



「綾瀬先生……?」

「練習の時は……拓海くん、由梨さんのこと一言もなかったから……」



深々と頭を下げる。




「本当にごめんなさい!」




頭を下げたままのさくら。

そんなさくらに、悠希は優しく話しかけた。



「大丈夫です、綾瀬先生。頭を上げて下さい」

「でも……」

「大丈夫」



さくらは恐る恐る顔を上げる。

目の前には、優しく微笑む悠希がいた。


「た~のやつ、他の子があまりにもパパやママのことを話すから……自分もつい言いたくなったんだと思います」

「はい……」






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