桜の花びら舞う頃に
「はぁっ、はぁっ……」



昇降口から勢い良く飛び出すさくら。

そのまま、臨時の駐車場へ走る。




(違うよ、悠希くん!)




気持ちだけが前に行き、足がもつれて転びそうになる。

しかし、それでもさくらは走るのを止めない。




『由梨を忘れて……』




(そんなの、悲しすぎるよ!)




夕陽に照らされ、緑のアーチは赤く染まる。

その中を走るさくら。

後ろも振り返らず、流れる汗もそのままに。



(ここを抜ければ、あと少し!)



その時、さくらの視線の先を一台の車が走り去る。

その、白いステーションワゴンを運転しているのは……



「悠希くん!」



さくらは、叫びながら車の後を追いかける。

しかし、その声は悠希に届かない。


さくらに気づかず走り去るステーションワゴンは、やがて沈みゆく夕陽の中に溶けていった。





その視界からステーションワゴンが完全に消えた時、さくらは走るのを止めた。


しばしその場に立ち尽くした後、崩れるように力なく座り込む。


さくらの全身からは、玉のような汗が吹き出していた。


そして、それと共に涙が頬を伝って流れ落ちる。


それらは滴となり、地面を黒く染めた。さくらの姿は、やがて訪れた夜の闇の中に消えていった。








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