桜の花びら舞う頃に
麻紀は、声を荒げて立ち上がる。



「ま……麻紀ちゃん?」



麻紀のその様子に、さくらは驚き体を起こした。

アルコールが入っているせいか、麻紀はいつになく興奮しているようだった。

麻紀は、バッと両手を広げる。



「いい? さくら! あんたは……」


「……た~君の先生なんだよ! ……って、言いたいんでしょ?」



麻紀が言おうとしていた言葉。

それを、さくらは奪って言った。


「……なんだ、わかってんじゃん」


ため息をつく麻紀。


「うん……先生と保護者の恋愛なんて……」


さくらは、再びテーブルに突っ伏す。


「普通に考えたら、マズいことくらい……わかるよ」

「さくら……」

「でも……ね」


さくらは顔を上げ、すがるような目で麻紀を見つめた。



「でも……今だけは、この気持ちを感じていたいの」



さくらは、胸の前で手を強く握り締める。



「今だけは……普通の恋愛がしていたいから……」



胸にたまっていた想いが、一気に溢れ出る。

その瞳は、真剣そのものだった。


「さくら……」

「それも……ダメなのかな……?」


さくらは、麻紀から顔を背けると、うつむきつぶやいた。


そんなさくらに、麻紀は何も言うことは出来なかった。


そのかわり、さくらを強く抱きしめる。


それが、麻紀に出来る精一杯の優しさだった。








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