桜の花びら舞う頃に
「う゛~~~ん、う゛~~~ん……」



部屋の中に、悠希の苦しげなうめき声が響き渡る。


「パパ、大丈夫~?」


心配そうな表情を浮かべ、拓海が姿を現した。

手には、水が入ったコップと粉薬を持っている。


「ありがとう……た~」


悠希は、今できる最高の笑顔で拓海に礼を言う。


「パパ……無理しないで~」

「え……?」

「だって、目が笑ってないもーん」



(う……鋭い……)



痛いところをつかれた悠希は、照れ隠しに頬をかいた。

そして、ゆっくりと起き上がると、ベッドの縁に腰掛ける。


「ありがとうな……」


もう一度お礼を言う悠希。

今度は、笑顔の代わりに優しく拓海の頭をなでた。


「うんっ!」


拓海は、笑顔でうなずく。

そして、コップと粉薬を悠希に手渡した。

悠希は、その薬を水と共に一気に流し込む。

薬は、その苦味を残す前に喉を通過していった。


「パパは、雨降ってるのに外にいたから風邪引いたんだよー?」


その様子を眺めながら、拓海が唇を尖らせる。


向日葵畑での雨で、びしょ濡れになった悠希。

それが、風邪を引いた原因だった。


悠希は再び横になると、バツが悪そうにタオルケットを鼻までかぶる。


「今日は、大人しくしてるんだよ」


そんな悠希の頭を、拓海が優しくなでた。


「学校終わったら、急いで帰ってくるからね!」


そう言って、笑顔を見せる拓海。

完全に、普段と立場が逆になっていた。








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