桜の花びら舞う頃に
タクシーの運転手は大貫と名乗った。

歳は、今月でちょうど40。

家族とは、訳あって別居中らしい。


「いやね、こういうのって、憧れていたんだよね~!」


大貫は、笑顔でハンドルを握る。


「この業界に入って10年……ようやくワシにもドラマチックな世界が……!」




(……しかし、よく話す男だな)




悠希は、先ほどからずっと話し続けている大貫を見た。


「同僚は、もう2、3度、ドラマみたいな場面に遭遇していてね……」




(でも……そのおかげで、暗い気持ちにならずに済んでいるのかな……)








悠希は、大貫のタクシーで見合いを行いそうなホテルや料亭を廻った。





しかし……





「このホテルも違った……」



やはり、そう簡単に見つかるものではない。


「覚悟はしてたけど……やっぱりヘコむなぁ……」


つぶやく悠希に、大貫は笑顔を見せる。


「あせらん、あせらん! まだ、8軒目じゃが」

「……そうですね、頑張ります!」


その笑顔につられ、悠希の顔にも笑みが浮かぶ。


「あ……ちなみに7軒目ですよ?」


しかし、その言葉は聞こえないふりをする大貫だった。









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