桜の花びら舞う頃に
悠希は失意に満ちた瞳で、ふと、通りに目を向けた。

通りは、たくさんの自動車が走っている。



「せめて、車があったら……多少は違うんだろうな……」



つぶやく悠希をあざ笑うかのように、1台のタクシーが目の前を通過していく。

そして、タクシーはウインカーを上げると、ゆっくりと歩道に横付けし停車した。

中には、老夫婦が乗っているのが見える。

どうやら、ここで降りるようだ。

仲むつまじく、手に手を取り合って車から降りてくる。



「タクシーか……」



その瞬間、悠希の頭に一筋の光が走った。



「これだっ!!」



悠希は走り出す。





老夫婦を降ろしたタクシーは、ウインカーを右に上げた。

アクセルを踏み、スムーズに前に進み出す。






その瞬間、悠希は両手を広げてタクシーの前に飛び出した。






キキ━━━ッ!!






運転手は、あわてて急ブレーキを踏む。


タクシーは、悠希の身体数センチのところで停止した。


怒りの表情の運転手。


「ばっ、馬鹿野郎! 急に飛び出したら、危ないじゃろうがーっ!!」


その怒声は、タクシーの外まで響いてくる。


しかし悠希は、そんな運転手の様子など、気にも止める素振りもない。

タクシーの横に回ると、助手席のドアを開け中に乗り込んだ。


「あ、お前、勝手に……」

「すみません! 見合いやるような場所、廻ってもらえますか!!」


運転手の言葉を遮る悠希。

その必死な様子に、運転手はマジマジと悠希を見た。


「……兄さん……ワケありだね?」


運転手の目がキラリと光る。

悠希は、無言でうなずいた。


「……よしっ、わかった! 任せておきな!」


そう言うと、アクセルを踏み込む。


タクシーはタイヤを鳴らし、けたたましく発進していった。









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