桜の花びら舞う頃に
「そうか~。良かったな、た~」



店の外に出て、隅の方で拓海と携帯電話で話す悠希。

明日は、祖父母に動物園に連れて行ってもらうらしい。

興奮して眠れない様子の拓海をなんとかなだめ、お休みと電話を切った。



「ふう……」



一息つく悠希。

その瞬間、言いようのない思いにつつまれた。

先ほどのエリカの言葉が思い出される。





『ずっと忘れられずに引きずっていたんだって。……キモくない? それって』





『昔の女を、いつまでも引きずってんじゃねーっての!』





『いくら素敵でも、いなけりゃ意味ないじゃん! もっと現実を見なって感じ!』





わかってはいた。


わかってはいたが、改めて言われると、つらく重くのしかかる言葉だった。



「俺が前に進まないことは……た~にとっても不幸なことなのかな……」



悠希はつぶやきながら店の壁に寄りかかる。




吹き抜けていく風は、悠希の火照った心と体を優しく包んでくれた。








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