青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
「今日もシズ…、学校にもたむろ場にも来なかったな。ヨウ」
暮夜の空の下。
長い上り坂を差しかかっていた俺は、そこをチャリで頑張って上ろうという気にもなれず、舎兄と肩を並べてチャリを押して歩いていた。
ぼんやりと闇夜を照らす外灯を見上げては、視線を逸らしているヨウは生返事で応対。
考え事をしているのか、あまり俺の話を聞いてはいないようだ。
俺は間を置いて、「シズのことで」何か気掛かりでもあるのか、率直に聞く。
やっぱり生返事をするヨウは、軽くくしゃみを零して鼻の頭をポリポリ。
「シズってよ」
ああ見えて自尊心高いんだ、躊躇いがちに話を切り出した。
「んでもって手前のことには鈍感なんだ。普段から鈍感そうに見えるけどさ」
話がよく見えないんだけど。
俺は首を傾げて、具体的に話してくれるよう頼む。「だから」鈍感なんだ、ヨウは繰り返し、言葉を紡いだ。
「喧嘩やチームのことで切れがあるあいつでも、自分のことになるとてんで鈍感になっちまうんだよ。気付けないっつーのかなぁ、自分のことをよく分かってないのかもしんねぇ。
……あくまでこれは俺の憶測に過ぎねぇけど、多分あいつ、家でなんか遭ってるんだと思う」
ヨウの家庭が複雑なように、シズの家も結構複雑だ。
シズが小さい頃に両親が離婚している。シズはお母さんに引き取られて女一つで育てられてたらしいんだけど、シズが中学に入る時、お母さんが再婚。
あまり上手くいかなかったみたいで、離婚届は出してないけど旦那さんとは不仲。
旦那さんは殆ど帰って来なくなったらしい。
代わりにお母さんは愛人を作り、家につれて帰るようになったとか。
よくシズが俺の家に泊まりに来るんだけど、その背景には家が嫌いだからという大きな理由がある。
家に帰りたがらないシズの家庭で何かあったんじゃないか、似た境遇に立っているヨウはなんとなく悟っているようだ。
「昔さ、シズ、俺に親の事を愚痴ったことがあったんだけど。その時、メロンパンを食っていたんだ」