一途に IYOU〜背伸びのキス〜


鳴り出したケータイをゆっくりと見ると、櫻井からの着信だった。
電話に出る事ができなくて、サブディスプレイを見つめてから、椋ちゃんに視線を戻した。


「最後まで、優しいね。椋ちゃんは。
でも……それが今はツラいよ」


今できる限りの笑顔を作ったつもりだけど、ちゃんと笑えてるか、自信はなかった。


「追いかけてきたりして、ごめんなさい。
もう、迷惑かけないし……あたしの事、忘れていいから」



視界が涙で見えなくなる。
椋ちゃんが今どんな顔をしてるのか、分からなかった。

目の前が全部真っ白になって、なにも、見えなくなる。


「ばいばい……椋ちゃん」



背中を向けて走り出した途端、涙が粒になって落ちた。






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