一途に IYOU〜背伸びのキス〜


女の人は、椋ちゃんの横にピタってくっついて、あたしを見ていた。
笑顔だけど……多分、挑発されてる。


「ああ。社長の……」
「椋ちゃん。そういうのいい」
「咲良?」


強い口調になっちゃったせいか、椋ちゃんが不思議そうに聞く。
心配されてるようにも思えたから、笑顔を作ってから説明した。


「そういう目で見られるの、苦手だから。
もう帰るし」


こんなところで“社長の娘”だなんて紹介されたくない。

あたしと椋ちゃんが親しい事を他の社員に知られたりしたら、椋ちゃんの昇格を悪く言う人とか出てきそうだし。
椋ちゃんは仕事が本当にできるのに、社長の娘と仲がいいからだなんて悪口を言う人が出てきたから困るし許せない。

それに……この人の前で、そんな紹介の仕方、されたくない。


椋ちゃんはあたしの気持ちを分かってくれたのか、それ以上紹介しようとはしなかった。

その代わり、また心配そうな顔で聞く。






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