甘い声はアブナイシビレ
もし、知穂に嫌がられたとしても、私の心はすでに龍一さんで一杯になっている…。

「知穂…?」
 知穂は黙って下を向いたまま、私に顔を見せてくれない。

 知穂の反応が無いので、心臓が緊張して苦しくなってきた。
 やっぱり嫌なのかな…。

「知穂ごめんね…」知穂の気持ちを考えると、泣きそうになる。
「違うの、葵!」
 私が謝ると、知穂はパッと顔をあげて私の手を握った。

「知穂?」
 あっ…。
 知穂は直ぐに私の手を離して、真剣な顔で私に聞いた。

「龍くんのこと、本気?」
 その瞳はある決断を光らせていて、私はそれが何だかわからなかったけれど、ちゃんと自分の気持ちを知穂に伝えなければいけない。
 それだけは、わかった。

 知穂に大きく頷いて、自分の気持ちを嘘偽りなく伝えた。
「本気で好きなの。会って間もないのに、可笑しいよね…。でも、本気で好きになっちゃったの…」
 ゴメンネ、そう謝ろうとしたけど、知穂がそれを遮った。

「わかった」
 ニッコリ笑う知穂の顔は、私に安心感を与える。

「葵が本気で男の人を好きになってくれたのは、私も嬉しいんだ」
 そう言いながら、少し知穂の顔には緊張感が出ている…。

「龍くんに、葵を大切にしろって言ってくる。私の大親友なんだから、泣かせたら承知しないよ!って脅してくる」
 そう言ってめちゃめちゃ笑いながら、
「じゃぁ、会社でね」私に告げると、早足でカフェを出ていった。
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