甘い声はアブナイシビレ
「じゃぁ、もういいね」一通りの参考書を選んで、本屋を出た。
 
 この道を曲がれば、龍一さんのマンションがある。ちょっと寄り道して行こうかな…。

「悠斗、先に帰ってて」
「何で?」
「な、何でって、ちょっと散歩したい気分なのよ!」
 答えに詰まって、いい言い訳が思い浮かばなかった。

「ふ~ん、まぁ、俺はいいけど。帰りに米買ってこいって母さん言ってたけど、ねーちゃん持って帰れんの?」
 あー、そうだった…。
 
 渋々、悠斗に答えた。
「散歩は、また今度でいいやっ。スーパー寄ってこ」
「いーじゃん。こっちに確か米屋あったし、こっちから行こうぜ」
 私に不敵な笑みを浮かべて、先に歩き出した。
 
 ヤバイ、何か勘づかれたかな…。悠斗にバレルと、結構面倒なんだよな。
 絶対お母さんに話すだろうし…。そうなると、彼を家に呼べって急かすんだよね…。
 
 龍一さんに、万が一でも会いませんように…。
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