甘い声はアブナイシビレ
 龍一さんのマンションが見え始めて、思わず歩くペースが遅くなる。

 バッタリ会うのは避けたいけれど、遠くからでも龍一さんを見られたら、すごく嬉しい。
 
 龍一さんの部屋がある3階を見て、通り過ぎようとしたら、
「誰かのマンションなの?」
 明らかにからかった口調をして、悠斗が私の顔を覗き見る。

「ふ~ん、ねーちゃんがねー」笑いを含ませながら、先に歩いて行く。
「違うから! 誰かのマンションってわけじゃないから!」早足で追いついて、
「私をからかうなんて、10年早い!」
 セットしてある茶色の髪の毛を、グシャグシャにしてやった。

「アーー! チッ、マジウゼー!」
 右手で持っていた参考書を、左手に持ち替えて、イラつきながら髪を整え出した。
 
 まさか、龍一さんと悠斗が面識あるなんて、その時は思ってもみなかった…。
< 82 / 142 >

この作品をシェア

pagetop