ONLOOKER Ⅱ


顔を上げた夏生は、居吹に向かって言った。
居吹はサングラス越しに眉尻を下げて、肩を竦める。


「さあ」
「狙ってるってなに?」
「命……は、さすがにないかな。金目当ての誘拐とか……てこと、スか?」
「俺にはなんとも」


言えない、という無責任すぎる言葉は最後まで言わずに、居吹はポケットから煙草ではなく、フリスクのケースを取り出した。

生徒会室の調度品は、この学校では理事長室の次に高価なもので揃えてある。
今日は昨日の暑さとは打って変わって少し肌寒いくらいなので、窓が開けられていないのだ。

それに生徒会だけならまだしも(なら、となってしまうところが居吹なのだが)、里吉もいる。
一応気を遣っているのだろうが、今は気の遣いどころが間違っているとしか思えなかった。

視線を向けられた里吉が、答える。


「うちのライバル、アダムス社というんですけれど、本社は中国にあって、チャイニーズマフィアとの繋がりも噂されていますわ」


それを聞いた直姫たちは、お互いに何度も顔を見合わせた。
表情も動きもなにもかも、全てが引きつっている。


「ちょっと、待って、それは」
「じゃあ、なに、もしかして」
「ご……護衛しろって、こと、かにゃ?」


蒼白な半笑いをいくつか向けられた、志都美家の御令嬢、もとい御子息は、他人事でももう少し優しいであろう能天気さで、素敵な笑顔を惜しげもなく披露した。


「そうね。皆さん、しっかり私をお守りになってくださいね?」


誰かの「嘘だろ……」という声が、霧散して消えて行った。

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