恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「……何?」


眠気は強くなる一方だ。


体がベッドに沈んでいくのが、手にとるように分かる。


目を閉じながら、海斗の声に耳を傾けた。


「さっき……浜で聞いたね。おれのこと、本当は誰なのかってさ」


「……そうだっけ?」


そんな気もするけど。


正直、明確には覚えてないや。


「そうさ。聞いてきたさ」


あれ?


海斗、声変わりした?


「……分からん」


「え?」


「おれは、自分の正体が分からん」


睡魔と闘いながら聞いているからなのか、得意の聞き流しをしているからなのか。


海斗の声が、低く安定していることに気付いた。


「おれさ……じゃ……ない……かもしれん」


そのまだあどけない低音が、やけに心地よく感じた。


「……え?……何?」


これは、夢なんだろうか。


現実なのか、夢の中にいるのか、もうよく分からない場所に入り込んでいた。


「おれ、人間じゃないかもしれんばぁ」


何言ってるの。


そんなわけないのに。


どこからどう見ても、海斗は人間にしか見えないのに。


海斗の声が、どんどん、遠退いていく。


「おれは、猫さ」


「……ね……こ?」


ああ、眠い。


もう限界。


海斗ともう少し話したいのに、眠くて。


「そうさ。おれは、海斗っていう名前の、捨てられた、野良猫かもしれない」


その海斗の呟きは、もう、あたしの耳にはほとんど届いていなかった。


ただ、感じたのは、左手になじむひんやりした温度だけだった。


「おれはさ……」























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