恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
ずっと、親友だと信じていたひかりに裏切られていたことを知った、あの日から。


与那星島へ越してきた、あの日から。


あたしが勝手に思い込んでいたのかもしれない。


あたしは孤独の世界にぽんと投げ出されてしまったのだ、と。


周りは人で溢れているのに、ひとりぼっちになった気がしてたまらなかった。


ひとりだと思うな。


あたしは誰かにそう言ってもらうのを、ひたすら待ちわびていたのかもしれない。


初めて、気付いた瞬間だった。


「だからさ。陽妃はひとりじゃないさ。おれがおる。美波もおるよ。おばあだって」


バカみたいに泣きながら、あたしは夢中になって海斗の手を握り返していた。


ピンと張っていた緊張の糸が、一瞬で弾けて切れた。


体が、心が、みるみるうちに軽くなっていく。


「ごめん、海斗……ありが」


暗がりの中で、海斗がクスクス笑った。


「いいさ。たくさん泣くといい。涙はさ、心の毒を洗い流すキレイな水なんだぜ」


だから、泣くのは悪いことじゃないんだよ、と海斗は笑った。


涙があたしの心にこびりついた毒を洗い流していく気がした。


海斗の言葉通りに。


泣き疲れたころ、びっくりするほど心が軽くなっていた。


あたしが泣いている間中、ずっと。


海斗は何も言わず、ただひたすらに手を握って寄り添っていてくれた。


もしかしたら、この時の海斗は、泣くあたしに昔の自分を重ね見ていたのかもしれない。



次第にまぶたが重くなってきた。


ゆっくり訪れたまどろみの中をさまよい始めたあたしに、海斗は囁くように聞いてきた。


「陽妃?」
< 123 / 425 >

この作品をシェア

pagetop