恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
―まだ、島にも島人にもなじめなくて、寂しいんだと思うよ―


ふう、とお母さんが肩を落とした。


「中学生っていっても、居るのねえ。海斗くんみたいな、大人の考えを持った中学生って、居るのねえ」


ごめんね、陽妃。


真っ直ぐ謝ってきたお母さんに、あたしは何も返すことができなかった。


ただ、口をつぐんで、左手を握りしめた。


―陽妃は頑張ってるさ―


―でもさ、頑張っている人間ほど、頑張っていることに気付かないもんさ―


「それでね、海斗くん。陽妃のおでこに触れて、言ったのよ」


「え?」


「言ったの、海斗くん」


―こん熱は、陽妃のSOSさ!―


ごくり、と飲み込んだ息は、微かに涙の味がした。


本当に、そう。


あたしは、必死にSOSを出し続けていた。


東京に居た時も、この島での生活が始まってからも、ずっと。


そのSOSに一番最初に気付いてくれたのは、お母さんでもお父さんでもなくて。


海斗だったんだ。


ふと、あの日言ってくれた海斗の声が、耳の奥で蘇った。


―約束するよ。おれは裏切らん。どんなことがあっても、おれが陽妃いのそばにおるさ―


―陽妃はひとりじゃないよー。おれがそばにおるからさ―



ほんとだ。


思い起こせば、この島へ来てから、いつも海斗がそばにいる。


毎日、一緒に過ごしていたことを、今になって知った。


「ねえ、陽妃」


お母さんがすっと立ち上がる。


「……何?」


「海斗くんて、不思議な子ね。お母さん、あの子の目を見るのが、少し怖くなる瞬間があるのよ」


え、と顔をあげると、お母さんはふふと小さく笑った。


「なんだろう。心の中まで読まれている気がするの」
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