恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
そう……なのかな。


「まあ、今のところ、仲良くしてくれるの、海斗と美波ちゃんだけだし」


同い年の子は、この集落にはいない。


周りはみんな小中学生で、どうにもなじむことができない。


塩味のお粥は、空っぽの胃にじんわり広がり染み込んでいった。


「ごちそうさま。おいしかった」


お粥を完食したあたしを見て、お母さんが可笑しそうに笑った。


「すごい汗。シャワー浴びて来たら?」


昨日もお風呂入ってないでしょ、とお母さんは空になった器を片しながら続けた。


「昨日は本当に焦ったわ。民宿に、海斗くんから電話が掛かってきてね」


―大変さ! 陽妃が熱出して、倒れてしまったが!―


―おばちゃんだけでも、今すぐ帰って来れんかね―


「もちろん、飛んで帰って来たかったのよ。でも、昨日は本当に忙しくて」


―分かるけどさ。でもさ、1秒でも早く帰って来れんかね!―


―きっと、陽妃は寂しいんじゃないかって思うよ―


―寂しいくせに、我慢してるんじゃないかと思うよ―


急に、胸がいっぱいになった。


海斗が、必死の形相で受話器を握る映像が頭に浮かんで、息ぐるしくなった。


あたしは左手をじっと見つめた。


「帰って来たらね、海斗くんに叱られちゃった」


と苦笑いして、お母さんは肩をすくめた。


―大人は仕事仕事ってずるいさ! 仕事が大事なのはよおく分かるさ!―


―でもさ、子供は寂しいんだぜ。寂しいけどさ、大人が大変なの分かってるから、我慢するのさ―


「親なら、陽妃のこともっと気に掛けてやれって、痛いとこ突かれちゃった」


―陽妃は、おれより年上だし大人かもしれん。でもさ、その前にひとりの女の子だに!―
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