恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「なに?」


ガバッと体を起こすと、ドア先に慌てた顔のお母さんが立っていた。


電話の子機をギュッと握り締めている。


「今、海斗くんのお母さんから連絡があってね。今からでもいいから、手伝いに来てくれないかって」


「あ、民宿? そんなに忙しいの?」


お母さんがこくりと頷いた。


「へえ。さすが南の島。リゾート地だね」


感心した。


さすが、夏のかきいれ時ってやつだよなあ、なんて。


「さっき休むって宣言したそばから、あれなんだけど」


と後ろめたさを顔に出して、お母さんは語尾を濁した。


この忙しい時なのに、お母さん、きっと無理して休んでくれたんだろうな。


……あたしのために。


それに、海斗に言われて、すごく気にしているに違いない。


子機をぎゅっと握り締めているお母さんに、逆に申し訳なくなった。


「いいよ。行きなよ」


「……でも」


「いいよ。熱も下がったし。大丈夫だから」


たぶん、もう、大丈夫な気がする。


これ、という決定的な根拠なんて分からないし、ない。


けれど、大丈夫な気がした。


「ほら、行って。海斗のお母さんたち、きっと待ってるよ」


「でも」


と煮え切らない態度のお母さんに、あたしは言った。


「SOS」


お母さんが豆鉄砲でもくらったようなハトのように固まった。


あたしが誰かに出したように。


「海斗のお母さんからのSOSなんじゃない?」


あたしはもう、大丈夫。


だって、気付いてもらえたから。


たったひとりだったけれど。


しかも、寄りにもよって、年下の男の子だったけど。


あたしのSOSに気付いてくれた人間がいた。
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