恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「……ありがとうございました」


ステップを一気に下りて振り返ると、おじさんがやわらかく微笑みながら「なんくるないさぁ」と右手を挙げた。


「……え?」


会釈をして顔を上げたあたしに、おじさんは言った。


「あのさ、ねぇねぇ、きっとなんくるないからさぁ……」


そしてドアが閉まり、バスはゆっくりと走り去って行った。


バスが見えなくなっても、あたしはしばらくそこに立ち尽くした。


ドアが閉まる直前だった。


運転手のおじさんの一言がどうしても耳から離れない。


――月や輝く夜に、ムーンロードに祈ると、ウニゲーが叶うよ


もし、それが本当なら、じゃあ、と思う。


もうこの要らないプライドとか見栄とか、全部を体から下ろしてしまいたい。


素直に正直に生きてみたい。


緩い風が吹いた。


風が揺らした草花の陰から虫たちの鳴き声が聞こえてくる。


ジー、ジー、ジー。


「……月やぁ輝く夜に」


ジィー……。


虫の鳴き声が一瞬止まった時、浜の方向からやわらかな夜風が波のように押し寄せて来て、集落の方へゆるゆるよ流れていった。


「うにげーが叶う、か……」


必ず分かり合える、と悠真は言ってくれたけど。


だからちゃんと話を聞けと、言っていたけど。


話を聞くとか聞かないとか、正直、けっこうもう、どうでもいい気がする。


だけど、会いに行こう。


それで、たった一言。


ごめんね、って。


謝ろう。


海斗に。


酷いこと言ってごめんね、って。

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