恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「ねえ、おばあー」


「かしましい(うるさい)。大きな声出すなぁ」


「はぁ? 別にそんな大きい声出してないじゃん」


「美波が起きてしまうさぁ。うるさくさんけぇ」


「やっぱり来てるんだ。海斗の家、真っ暗だったから、おばあのとこかと思って」


「そうかね」


一拍あったあと、


「陽妃」


おばあはいつも以上にゆったりとした口調で言った。


「美波や泣き疲れて、いま、眠ったところだしよ」


「え……?」


泣き疲れて、って。


「何かあったの? 海斗は?」


思わず詰め寄りながら聞くと、おばあはむすっとした顔で首を横に振った。


「海斗やぁ、ここにはおらん」


「……何があったの?」


ねえ、と今にも土足で上がり込みそうな勢いのあたしを見て、おばあが疲れたと言わんばかりに大きな溜息を吐き出した。


「陽妃よ」


「なに?」


「いま行ちゅんから、外で待っていよーさい(待っていなさい)」


いいね、そう言って、おばあはあたしを玄関に残したまま、居間に入り引き戸を閉めてしまった。


とにかく、あたしは言われたように玄関の外に出て、おばあを待った。


月が辺りを明るく照らす。


白い砂地に、あたしの影が伸びる。


なんだか妙な胸騒ぎがして、あたしは深く息を吸い込んだ。












「わっさん(ごめん)。待たせたかね」


しばらくして外へ出て来たおばあがあたしの隣に並んで、曲がった腰をとんとん叩きながら月を見上げる。


「今夜やぁ満月か」


「……うん」


頷いたあたしの全身を舐めるように見たあと、おばあが呆れたと言わんばかりに溜息を落とした。


「陽妃。元気なんは良いことだしよ。やしが、無茶はするな」


え? 、と首を傾げると、


「美波から全部聞いたさ」


と、おばあは、もうすっかり治りかけているあたしの腕の擦り傷や切り傷を、しわしわの手で撫でた。

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