恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「やてぃん……なーんか、フラフラしはるからさー」


今日いちにち上の空だったば、と里菜がゴミ箱を抱えてすたすた歩きだす。


「ああっ、里菜」


大丈夫だから、とあたしは小走りで追いつき、里菜からゴミ箱を奪い返した。


「部活あるでしょ? 遅れちゃうじゃん」


行って、と里菜の肩をぽんと弾くと、


「あのさ、陽妃」


里菜は細く整った眉毛をハの字にして、あたしの額を人差し指でつんと小突いた。


「そんなゾンビみたいなちら(顔)で大丈夫さ言われて、行けるかね」


ゾンビ?


あたし、そんな酷い顔してるのかな。


「みー(目)の下のクマ。たまらんよ(ひどいよ)、それは」


「あ……昨日、眠れなくて」


うはは、と苦笑いして肩をすくめたあたしから再びゴミ箱を奪い、


「一緒に行こうね。部活までまだ時間あるからさ」


付き合うさ、と里菜が微笑んだ。


「……ごめんね。ありがと」


階段までの廊下を歩きながら、里菜がいきなり核心を突いてきた。


「原因やあの子かみ? 年下のイキガ」


同じクラスというだけでなく、朝のフェリーも一緒になるあたしたちは色々と語り合ううちに、深いことまで話す仲になっていた。


あたしは東京で傷ついたことを話したし、里菜も亡くなった双子の弟のことを話してくれた。


「あ、いや……なんて言うか」


「何か進展でもあったかね。それとも、ケンカでもしたんか」


「ううん、そういうわけじゃないけど」


あたしと海斗が曖昧な関係にあることも、里菜は知っている。


「直接じゃなくて。なんて言うか……間接的に。ダメージくらっちゃったっていうかね」


「……どういうことか?」

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