恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
唐突に、目頭が熱くなった。


「……あ……っ」


同時に込み上げたその感情にの大きさに耐え切れず、声が漏れ、とっさに口元を手で塞いだ。


ドクドク、心臓が暴れ回る。


ポツ、ポツ、髪の毛先から落ちた雨水が玄関にシミをつくる。


苦しくて、苦しくて。


胸元をむしるように掴んでみるけれど、どうにもならない。


――……なんかおれ、ばかみたいだね


海斗はばかみたいじゃないよ。


ばかなのは……あたしだ。


息ができなくなりそうなくらい、胸が詰まる。


苦しくて、苦しくて。


抑えようと思っても、嗚咽が漏れる。


あたしは口元を手で塞いだまま、玄関に膝からゆっくり、崩れ落ちた。


どうして、今更になって、気付くんだろう。


こんなに苦しくて、息ができなくなりそうなくらい。


海斗の存在が大きくなりすぎていたことに。


どうしてもう少しでも早く、気付けなかったんだろう。


一度こぼれてしまった涙はもう、止める術がなかった。


あたしは玄関にぺたりと座り込んだまま、吐き出すように、泣きじゃくった。


「な……んでっ……」


なんで、あたし。


いつのまに、こんなに、好きになっちゃったんだろう。


気付けば一緒に居たのではなかった。


海斗が側にいてくれることが、当たり前になりすぎて、分からなくなっていた。


気付けば一緒に居たのではなかった。


あたしの毎日は、全て、海斗になっていたんだ。


体中、海斗だった。


苦しくて、苦しくて。


息ができなくなりそうなくらい。


海斗を好きになっていた。


「――……」


あたしの泣き声は、降り止まない雨にかき消されて、誰にも届かない。


胸が潰れてしまいそうだった。


海斗を想うと、泣いても泣いても、涙がぽろぽろあふれて止まらなかった。


海斗へのスキがあふれて、あふれて、ぽろぽろ、あふれだした。


誰かを想って、声を上げて泣いたのは、生まれて初めてだった。





その雨の夜を境に、ネコのルリは姿を現さなくなった。


そして、ルリと意外な形で再会を果たしたのはもう少し先のことで。


あたしが高校3年生の夏の、夕日がきれいな日だった。

















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