恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「あぁーもーさー。また悠真のこと困らせてしまったさー」


予定時刻きっかりに船着場を離れたフェリーの中で、目をごしごしこすりながら里菜が肩をすくめた。


「陽妃も。わっさんね。みっともないとこ見せてしまったよね」


ううん、とあたしは首を振った。


「そんなことないよ」


一晩降り続いた雨のせいで海はまだ波が高く、ときどき、船が大きく揺れた。


朝の陽射しを跳ね返して煌めく波頭を窓越しに見つめる里菜が、まぶしそうに目を細める。


「さすがに陽妃も気付いてしまったかね」


「あ……うん。なんとなくそうかなーって。里菜、悠真のこと」


その先を言う前に、里菜が小さく頷いて気恥ずかしそうに微笑んだ。


「小学生のころからずっと好きやたん」


やっぱり。


「今年の冬さ」


と里菜が声のトーンを少し落として続けた。


「悠真に振られたんやさ」


「えっ」


「バッサリな。振られたさー」


「里菜、悠真に告白したの?」


びっくりして聞くと、


「なんかもーさー、気持ち抑えられなくてさぁー。当たって砕けろーの勢いでね。しちゃんらさ……」


一度言葉を飲み込んで、里菜が苦笑いした。


「こっぱ微塵さ。じゅんに砕け散ってしまったやしがね」


「でも、里菜、まだ好きなんでしょ? 悠真のこと」


昨日のあの様子じゃ、とてもじゃないけれど吹っ切れているようには思えない。


「自分でもさ、諦めの悪いやつさーとは思うんやしがねぇ」


里菜は言い、へへ、と頭を掻いた。


「そう簡単に諦められねーらん。やてぃん、いつかは諦めるしかないけどさ。もう、二度と好きさなんて言えんしさ」


口が裂けても言えねーらん、そう言って、里菜は切なげに微笑んでうつむいた。


「口が裂けてもって……どうして?」


「うん……」


少しの沈黙のあと、里菜が答えた。

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