恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
進路予想図を見ると、確実に沖縄は台風の通り道になっていた。


おばあのすごさに背中がぞくっとして、ハッと我に返る。


『台風は今後、発達しながら西寄りに進み、今週末には沖縄、奄美地方に接近する予想です。今後の動きに注意が必――』


プツ、とテレビを消して、


「やば。遅れる」


あたしは急いで家を飛び出し、バス停に向かった。


木曜日。


平日の早朝のターミナルは、がらんとしている。


この時間帯に観光客が居ることは、まず、ない。


乗客は石垣島や近くの離島へ仕事に行く大人がちりぽり数人と、学生のあたしたちくらいだ。


待合ロビーに行くと、同じ制服の後姿を見付けた。


すらりと細くきれいなうなじ。


ボーイッシュなショートヘアー。


里菜だ。


「里菜! おはよー」


小走りで駆け寄って行くと、振り向いた里菜と目が合って、


「えっ! ちょっと、里菜……」


「はっさ! なにさー陽妃よー!」


互いの顔を見るや否やあたしたちは同時にブハッと吹き出して、ゲラゲラ笑った。


「何ねぇー! そのみー(目)はよー! 一重になっちょるしさぁー」


「里菜だって! 三重! 三重瞼になってるんだけど!」


うわっ、ぶっさいくー!


と、静かなターミナル内にあたしたちの笑い声がキンキン響く。


騒がしいあたしたちを、売店のおばさんが笑った。


朝から元気でいいさー、なんて。


あたしも里菜も、明らかに元気じゃないことは目の下にくっきり浮き出たクマが証明していた。


でも、笑うしかなかった。


「一晩泣き明かしちゃんらこれさ! どうだね!」


と、ぼっこり腫れた三重まぶたを指先で引っ張って笑うしかない、里菜。


「あたしも。ほら、ど、どうだね!」


一重に腫れた重いまぶたを指で引っ張り上げて笑うしかない、あたし。


ふたりともそれはそれは世にも酷い顔で、もう、笑うしかなかった。

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