恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
あれは、風が強くて波が高い日だった。


――人間に生まれて来なければ良かったさー


あたしが浜のガジュマルの木に触れるどころか、枝で殴りつけてしまった日だ。


「あのさ、おばあ……」


おばあは制服の襟を縫い続けたまま、そっけなく返事をした。


「いー」


あたしはお椀と箸を置いて、卓袱台の前で膝を抱き締めた。


「海斗がこんな事になったのは、あたしのせいだよね」


そして、膝に顔を埋めた。


あたしのせい。


あたしがあの日、島の掟を破ったから。


災いが起きてしまったんだ。


きっと。


「何でわーのせいだと思うのかみ?」


「……風が強くて波が高かったのに。浜のガジュマルの木に触っちゃったから……神様が怒っちゃったのかな」


あたしが掟を破ったから……、とまた泣きそうになった時、おばあの立ち上がる音がしてのしのしと足音が近づいてきた。


おばあがあたしの横に座る気配がした。


「そうかもしれねーらん」


「……うん」


あたしは膝に顔を埋めたまま、奥歯を噛んで涙を堪えた。


やっぱり、罰が当たったんだ……。


「やしが、もしそうだとしたらさ。陽妃ぃ」


と、おばあがあたしの背中に手を当てる。


その温かさにはっとして顔を上げる。


「海斗や、災いから陽妃を守ったのさー」


おばあはあたしの横にちょこんと正座していて、直ったよ、と制服を差し出してきた。


「海斗が? あたしを?」


聞きながら制服を受け取ると、おばあが頷いた。


「災いやぁ掟を破ったもんに降りかかるものさ。やさから、海斗や災いから陽妃を守ったのさー」


――もしさ、おれが人間じゃなくてスーパーヒーローだったらさ


「おばあ……あたし……」


受け取った制服に、とっさに顔を埋める。


また大きな声を上げて泣いてしまいそうだった。


「……ごめんなさいっ……ごめんなさ……」


制服に顔を押し付けて声を押し殺すあたしの背中を、温かい手が摩った。


「海斗やそういうイキガさぁ。優しくて強いイキガやさー」


おばあはそれ以上なにも言わず、あたしの背中を摩り続けてくれた。

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