恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

書き掛けのメッセージ

お腹へった……。


おばあから借りたシャツを着て、あたしは卓袱台の上でほかほかと白い湯気を立てるお椀を覗き込んだ。


いいにおい。


「かめー(食べなさい)。冷めてなおすよー」


居間の隅にちょこんと座り、あたしの制服の破けた襟を針でちくちく縫いながら、おばあが言った。


「あれだけ泣いたら腹も減るやんやぁー」


柱時計が時を刻む音が、静かな部屋にカツコツ響く。


針仕事をするおばあの横で美波ちゃんがクウクウ息を立てて眠っている。


「泣き疲れたんだしよ。しばらく起きねーらんさ」


おばあに手引かれ泣き叫びながら帰って来たあたしを見て、あたし以上に泣いてしまった美波ちゃんの寝顔はぱんぱんに腫れてしまっている。


「陽妃があんなに泣くからびっくりしてしまったのさぁ。ねぇー美波ぃー」


とおばあが美波ちゃんの髪の毛をそおーっと撫でて、天井を見上げる。


「家が傾いてしまったさ」


とおばあは言うけれど、実際におばあの家が傾くことはなかった。


でも、あたしと美波ちゃんの泣き声は相当のものだったらしい。


近所のおばあやおじい、子供たちも何事かと様子を窺いに来て、この家の玄関先はちょっとした騒動になった。


数十分前まで、おばあの家はあたしと美波ちゃんの泣き声がわんわん響いていた。


「食べねーらんヌかみ?」


おばあに言われて、あたしは小さく首を振った。


「……いただきます」


卓袱台の前に正座し直して両手を合わせるあたしを見て、おばあはどこかほっとした様子で手を動かし続けた。


ずひ、と啜ったアバサー汁は、泣くだけ泣いてすっからかんになったあたしの体に、じんわりと優しく染み込んでいった。


「……おいし」


「当たりメーさ。くぬオバァが作ったんやっさーから」


「うん……」


アバサー汁をこくこく飲みながら、


「おばあ」


あたしは、いつだったか前に海斗が言ったその言葉を思い出していた。

< 327 / 425 >

この作品をシェア

pagetop