恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
だから知りたかったのだ、と葵ちゃんはあたしがあげた口紅を握り締めた。


「海斗が好きになった人がどんな人なのか、知りたかったの。アチャー(明日)、海斗が帰ぇーって来る前に。知っておきたかったんだしさ」


「あたしの、ことを?」


こく、と頷いた葵ちゃんは切なげに微笑んだ。


「だって、記憶がない海斗に聞いても、教えてもらえねーらん」


ズキ、と胸が痛んだ。


「もし、海斗に聞かれた時、教えてやれねーらん。陽妃さんがどんな人なのか聞かれても、教えてやれねーらん」


それに、おばあに叱られたんだしよ、と葵ちゃんはあたしの制服の襟を破いてしまったことを謝ってきた。


「おばあに叱られたんだしさ。どうしてそんなに陽妃さんを目の敵にするんか、って」


「おばあが?」


「やさ」


と葵ちゃんが肩をすくめる。


「おばあ、言ってたよ。陽妃さんや不器用なちゅらさんさって」


――陽妃や不器用なだけやさー。葵や勘違いしよる


――アヌ子や人を裏切らねーらん


「やてぃん、そんなん分からんよって言い返しちゃんらさ」


――陽妃と話してみれば分かるさぁ。アヌ子や裏切らねーらん


――正面から向かって行けば真剣に向き合ってくりゆんよ。陽妃やくくる(心)ヌきれいな子だしよ


「って。おばあ、言っとった」


あたしはたまらず苦笑いしてしまった。


「まさか。あたしの心はドロドロだよ」


おばあボケたんじゃないの、と笑いとばしたあたしを葵ちゃんがクスクス笑った。


「じゃあ、何でか?」


「へ?」


「わんのことなんか知らんふりすれば良かったのにさ。ほっとけばよかったのにさ。やしが、陽妃さんや知らんふりしなかったよ」


「……それは」


さすがに中学生に尾行されて放っておくなんてできなかっただけで。


別に深い意味なんてない。


ふふふっ、と葵ちゃんが可笑しそうに吹き出す。


「陽妃さんと話して分かった気がするさ。海斗が好きになった理由も、美波ちゃんが陽妃さんになつく理由も」


そして、葵ちゃんは口紅を太陽にかざして微笑んだ。
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