恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「とーさ(それで)、持って来たかぁ」


卓袱台を挟んで少し向こうにちょこんと座るおばあと目が合って、


「うん」


あたしは微笑んだ。


「じゃあ、これ。よろしくお願いします」


あたしはポケットから水色の封筒を取り出して、卓袱台の上に乗せ、おばあの方へすっと滑らせた。


おばあの視線が封筒の上に止まる。


ややあって、おばあの声が返って来た。


「ウー、確かんかい。預かりましちゃん」


ずっと封筒を見つめたままだったおばあのしわしわの指がぬうっと伸びた。


おばあは封筒を掴むとのそっと立ち上がり、祈りの間へ入って行くと、それを神棚の上に置いた。


そして、おばあは神棚に手を合わせ祈りを捧げた。


「カフー、アラシミソーリー」


幸せが、訪れますように。


祈りの間から戻って来たおばあに、あたしは言った。


「おばあ。でも、海斗が誰かと結婚する時が来たら、その時は捨ててね」


「いー。分かってるさ」


「その時は絶対渡したらダメだからね」


「ウー。約束さ」


「お願いします」


これで、サヨナラの準備は全て整った。


「じゃあ、もうすぐ時間だから行くね」


あたしは言い、東京のワンルームマンションの住所と携帯番号を書き記した紙を卓袱台の上に置いて、立ち上がった。


「元気でね、おばあ。美波ちゃんにもよろしく」


「いー。見送りやしねーらん」


「分かってるよ。しないでって言ったの、あたしだもん」


「ちばりよー、陽妃ぃ」


あたしは笑顔を返して、おばあの家を出た。


朝から眩しい太陽の光。


穏やかな南風。


「おばあ。お世話になりました」


おばあの家に深い一礼をして、あたしは歩き出した。


見上げたあたしの頭上には、神様がプレゼントしてくれたとしか思えないようなトルコ石色の青空が広がっていた。


3月下旬。


もうじき島中のデイゴが燃えるように赤く満開になりそうな日に、あたしは与那星島を出て、海を渡った。


期待できない小さな小さな希望を、おばあに託して。


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