恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
にっこり笑うお父さんの後ろで、しばらく笑顔を失っていたお母さんが微笑んでいた。
沖縄のガイドブックやらパンフレットやらを見つめながら、嬉しそうに。
「お母さんのためにも、こうする事がいちばん良いと思うんだ」
だから、とお父さんが続けた。
「少しずつ、荷造りをしておくんだよ」
どうしよう。
あたし、東京を離れたくないのに。
気の合う友達と毎日楽しく過ごして、みんなと一緒に卒業したいのに。
彼氏と離れるなんて……嫌なのに。
でも、今更やっぱり嫌だなんて、あたしだけ東京に残るだなんて。
そんな都合の良い事は言えなかった。
「お父さんと陽妃と、与那星島で暮らせるなんて。夢みたいだわ」
だって、お母さんが本当に嬉しそうに笑ったから。
お母さんの笑顔を曇らせたくなかったから。
だけど、あの時、嫌だって抵抗のひとつやふたつ、しておくべきだったんだ。
そうすれば、この胸が張り裂けるような思いをせずに済んだのかもしれない。
そうしていれば、誰も傷付かずに済んでいたのかもしれないのに。
知らない事が幸せだったりする。
知らぬが仏っていうくらいなんだから。
沖縄行きがきっかけで、あたしは知ってしまったのだ。
友情の脆さも、恋の儚さも。
人は簡単に人を裏切れる生き物なんだって。
簡単に捨ててしまえる残酷な生き物なんだって。
……知ってしまった。
沖縄のガイドブックやらパンフレットやらを見つめながら、嬉しそうに。
「お母さんのためにも、こうする事がいちばん良いと思うんだ」
だから、とお父さんが続けた。
「少しずつ、荷造りをしておくんだよ」
どうしよう。
あたし、東京を離れたくないのに。
気の合う友達と毎日楽しく過ごして、みんなと一緒に卒業したいのに。
彼氏と離れるなんて……嫌なのに。
でも、今更やっぱり嫌だなんて、あたしだけ東京に残るだなんて。
そんな都合の良い事は言えなかった。
「お父さんと陽妃と、与那星島で暮らせるなんて。夢みたいだわ」
だって、お母さんが本当に嬉しそうに笑ったから。
お母さんの笑顔を曇らせたくなかったから。
だけど、あの時、嫌だって抵抗のひとつやふたつ、しておくべきだったんだ。
そうすれば、この胸が張り裂けるような思いをせずに済んだのかもしれない。
そうしていれば、誰も傷付かずに済んでいたのかもしれないのに。
知らない事が幸せだったりする。
知らぬが仏っていうくらいなんだから。
沖縄行きがきっかけで、あたしは知ってしまったのだ。
友情の脆さも、恋の儚さも。
人は簡単に人を裏切れる生き物なんだって。
簡単に捨ててしまえる残酷な生き物なんだって。
……知ってしまった。