泣き顔にサヨナラのキス
最初も最後も
   

程よく食べて、それから呑んで店を出る。


唐突に孝太が「今日、俺の部屋に泊まってよ」と言った。


「ええっ?」

「そんな驚く事?」

「だって、今まで孝太の部屋に泊まったことないし……」


付き合う前に、一度断られてそれっきり。ずっと、泊まってみたかったけど。


「俺、カナが居ないと部屋に入れない」

「なんで?」

「さっき、渡したから」


ああ、そっか。突然鍵が欲しいなんて言ったから。

「だったら、返すよ。またいつか、合鍵作ったら頂戴」

バッグに仕舞っていた鍵を差し出すと、孝太はギュッっとあたしの手を握り締めた。


そのまま暫く無言で歩いて、ふと立ち止まった。





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