13回目の好き
ザザーン、と波を打つ音が俺の心を弱くしていく。
兄さん、…俺を憎んでいるんだろう?
杉野:「…家出…。」
ポツリと呟いた杉野に、また話始める。
「あの日のことは忘れない。あの日は大雨で外は嵐だった。兄は、そんな嵐の中、港へ逃げ出したんだ。」
何故港へ行ったのか、…分からない。
「俺は必死で追いかけて呼び止めた。兄は俺を…睨んで…」
フッと、目の前に広がるその時の情景…。
ざあざあと降りしきる雨の中、強風にさらされながら、あの頃の兄の姿が目の前に…。
薄暗い、良く見えない…。
睨んで…ない?
憎んで…いないのか…?
過去に映るその目に…兄の悲しそうに笑う姿が…
俺は、今まで忘れていたのか?
兄は俺を憎んでいると思い込んでいた。
過去が鮮明に蘇る。
なら、あの言葉の意味も理解できる…。
杉野:「三浦先生…?」
心配そうに見つめる杉野に、ハッとし、過去から現実へと移り変わる。
赤い夕日を目に焼き付けて、もう一度思い出す。
「分からない。俺はあの時あまりにも子供だった…。兄は、どんな顔をしていたのか…。」