13回目の好き
"一樹、…俺は…本当は教師になりたかったんだ…。"
ふと、波の音が、懐かしい兄の声に変わって俺の耳元で囁く。
綺麗だった赤い夕日は沈んだ、その瞬間、辺りは暗闇に包まれる。
輝きなんて、いつかは消えてしまう。こんなにも一瞬に青い海を…黒く染めてしまうのだから…。
「兄は、俺に…"教師になりたかった"と告げて、一瞬にして海に、波にさらわれた。」
兄は死にたくなかったと思う。
あの時確かに俺の方へ歩き出したんだ…。
「俺も波にのまれ、けれどすぐに助かった。近くの漁師が俺を抱えて避難させた。…何度も言ったさ。兄を助けてくれって…。」
杉野:「…。」
スッと立ち上がる俺を、杉野は見上げた。
「兄はその日死にました。…遺体も見付かって。」
両親は俺のせいだと言い兄の変わりに、兄の倍の教育を受けた。
「…杉野は、何故、真っ直ぐに言える?」
言いたかった。両親に。俺自身の我慢や兄の気持ちを。
「ただ…人は変わる。両親に何があったか分からないが、俺が大学を出た時、"お前の好きなように生きなさい"と言われたんだ。
杉野:「…。」