ある夏の物語
いつもの優雅な美鶴からは想像も出来ないくらい、みすぼらしい様子だった。



「未定?」



先生はイライラと繰り返す。



「進学か就職かくらいは決まるだろう!」



今度は答えなかった。



「自分の将来なんだぞ!」


「俺に将来はないんですよ…。」



小さな声だった。



だけど、あたしには、美鶴の言葉がはっきりと聞こえた。



どくんと、心臓が鳴った。



どういうこと?



何を言ってるの?



将来がないって、どういうことよ。



先生もぽかんと美鶴を見つめている。



美鶴は先生を見もせずに、静かに椅子を引いて座った。



どこか、ふらついて見えた。



先生は怒鳴ることも忘れ、唖然としている。



そのうち、チャイムが鳴った。



他のクラスがガヤガヤと動き出す中、この教室だけは時が止まったかのようだった。











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