ある夏の物語
口を尖らせて言うと、美鶴は驚いたように目を丸くした。



くせ毛のふわふわした前髪に、雪が乗っかる。



その雪を振り払ってから、美鶴は笑った。



「そうだね、郁を信じることにするよ。」



くくっと、喉を鳴らして笑った。



「だいだい、先生は美鶴を目の敵にしてるんだよ。」


「俺、嫌われてるからなぁ。」



遠い目をして、また笑った。



「…いい加減、進学か就職か決めたら?」



あたしの声には怒りが混じっていたと思う。



だって、この時期にはみんな進路についてだいたい考えを固めているのに、美鶴だけは担任に何を言われても無言のままだったのだ。



いくら将来が真っ暗だぞと脅そうと、慌てもしなかった美鶴に担任はいい加減苛立っていた。



そして、問いただされると決まって表情を消す。



あの日もそうだった。



「郁が心配することじゃないよ。」


「するよ。」



だって、これ以上目立ったことをしたら…。



美鶴はあたしの視線を避けるように、栗色の髪を掻き上げた。



美鶴はハーフだ。



髪がもともと明るい茶色をしている。



これも美鶴が目をつけられている理由。




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