長い一日。
おじいさんの心は少し悩んでからピアノの前に腰を掛けて、目を閉じ鍵盤に触れた。

“ポォォーン”長く続いた一つの音。

「……だめだッ!!」

おじいさんの心はピアノを拒絶するように頭を抱えてしまった。

「焦らなくていいよ。
そんなにすぐにできたら逆にすごいって」

私は軽く笑って隣に座った。

「一緒に弾こう?」

“ポーン”私が鍵盤に触れるとおじいさんの心はおびえた目を開いて、鍵盤に手を伸ばす。

“キーン”高い音が響いた。

私はおじいさんの心がピアノとしっかり向き合うのを確認し、息を吸い込んだ。

「…いくよー?せーのっ!」

私の合図とともに部屋にピアノの音が広がる。

相変わらず私のメロディはでたらめで、そんな私の音をおじいさんの心の音が優しく包み込む。

時には元気に飛び跳ねるような音だったり、あったかくて優しい音だったり、心が和やかになるようなとても明るくて優しい曲。

これが私の曲?

ううん。

この曲にはもっとふさわしい子がいる。

シイナだ。

明るくて元気で優しい。

私の姿をした女の子。

この曲はシイナの方があう。

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