偽りの人魚姫
5.ありがとうの意義
授業はあまり身が入らなかった。

頭にあるのは、日本史じゃなくて。

英語でもなくて。

クリスマスライブと彼女のこと。

一律に考えるのは、おかしな気がするが、どちらも難しい問題だ。

授業が終わると、思わず、机に突っ伏す。

2時間たっぷりと考えたのに、何も進まなかった。

やっぱ、ない頭をしぼっても意味はないんだろうか。

残念すぎるぞ俺の頭。

後悔しても、過ぎてしまった時間は取り戻せるものじゃなく、時はいつでも前に進む。

部室にキーボードを取りに行かなければならないことを思い出した。

つっても、あれ、超重いんだよ。

壊れて、右端の鍵盤が鳴らないくせに。

2年の教室は4階。

部室は、部室棟の2階。

部室棟に行くには、一回校舎を出る必要があって、これがまたメンドクサイんだ。

原則としては、外履きに履き替えなくちゃいけないし。

まぁ、規則を守るような真面目な人、よっさんくらいしかいないけど。

キーボードを一人で運ぶのは無理だ。

前、一回挑戦して、痛い目見たし。

だから、スケットを探すことにした。

とりあえず、その場で教室内を見渡す。

授業が終わったばかりで、皆各々に喋っていて、暇そうなやつばっかだ。

ほとんどの席が埋まっている中、彼女の席はもう空だった。

帰んの早いよ。

彼女の周りの席が全部埋まっているだけに、余計にそう感じる。

彼女の席の隣に、特に暇そうなやつを発見。

昼間、声をかけてくれた日野だ。

スポーツマンさながらの爽やかな出で立ちに、爽やかな笑顔がおまけつき。

声をかけると、とても快く引き受けてくれた。

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