偽りの人魚姫
控室を出た廊下でとりあえず深呼吸。

控室は酸素濃度が低いんじゃないかと思う。

喉もからからだ。

今までは仕事を押し付けられるからと役員の部屋を避けていたが、支給されたお茶がそこにあるのを思い出して、長い溜め息を一つ吐き出す。

逃げるほどの幸せも持ち合わせてないから、惜しげもなく長い溜め息。

ついでに憂鬱も吐き出せればいいのに。

なんて。

無駄にセンチメンタルぶってる自分に恥ずかしくなって、役員の部屋に急いだ。

役員の部屋に入ると、目に入るのはおばさんの塊。

中には自分の母も混ぜ込まれてる。

この部屋には、塊以外の生命反応はない。

つまり、子どもが俺以外いないってこと。

目当てのお茶にありつけても、居心地の悪さは抜けない。

ここにも俺の居場所はないのか。

俺は、いっそ地区会館の外にで出てしまおうかと自分のカバンを持って立ち上がった。

でも、もうすぐコンサート始まるからどこにもいかないでって。

母ちゃん、あんた阿修羅かよ。

後ろに顔でもあんのか。

釘を刺されてしまった俺は、そののまま座りなおすのも虚しかったからホールへと向かうことにした。

役員用の席は、ホールの一番後ろ。

一番後ろって言ってもただの地区会館に過ぎないから、演奏者との距離は近い。

この様子じゃ寝るのも無理か。

当初の予定も崩れ去って、コンサート中何をしようか考えていると、いつの間にか役員の人々がホールに来ていて、母さんはちゃっかりと俺の隣に座っていた。

携帯の電源は切るみたいよって。

俺に携帯持たせてくれないくせに、何言ってんだ。

そう言うなら早く携帯買ってくれって主張しようとしたところで、開演のブザーが鳴る。

こんなにも運がない日なら小言の一つ増えたところでなんも変わらないだろ。

とか思って。

結局寝ることにした。

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