偽りの人魚姫
吉田義人。

名簿で見かけたことがある名だ。

その程度の認識だったのに。

学校では完全に形を潜めている存在感が、今はセーブすることなく放たれている。

その圧倒的な存在感に、俺は言葉もでないほど、惹きつけられた。

俺が求めているのは、これだ。

自分は存在しているのだと、確かにそこにいるのだと主張すること。

見つかった。

今まで全く見えなかった先が、見えた気がする。

これからの中学生活、何をするでもなく、ゲームに浸るものだと思っていたが、自分にも、やりたいことが出来たみたいだ。

音楽だ。

音楽はこんなにも、自分を表現する幅を持っている。

音楽に携わっていれば、自分はそこに存在するのだと、存在してよいのだと、実感できると思った。

コンサートが終わると、すぐに控室に駆け込んだ。

扉を開けると、すぐに分かった。

纏ったオーラは消えることなく存在を主張していて

目当ての人物をすぐに見つけられた。

「なぁ、同じクラスだよな?俺、飯島って言うんだけど・・・」

「知ってる。」

畳み掛けるように、話しかけると、冷めた視線と共に台詞を切られる。

「で、飯島くんがなんの用?」

吉田義人は、片づける自身の手を止めずに、視線だけをよこす。

「あの、俺、感動して、それで、あの、こんなの初めてで、なんて言ったらいいか・・・。とりあえず、凄かった!」

「それは、どうも。」

興奮して上手くしゃべれない俺に、冷静に答えてくれる。

言われ慣れているのか、お礼まで軽く添えて。

「でさ、急なんだけど、俺とバンド組まねぇ?いや、組みません?」

< 34 / 47 >

この作品をシェア

pagetop