偽りの人魚姫
中学の頃の通学路。
 
駅からは、迂回しなければならない道だけど、初心に戻ろうとか適当に言い訳をつけて、歩を進める。
 
中学の頃いつも寄り道した公園に、懐かしみながら入る。
 
丘の上のはじっこ。
 
公園の奥にいくと、隣の町が一望できる。
 
パノラマ状のその景色は、俺の昔からのお気に入り。
 
今は夜だから、民家の明かりが綺麗だろうと思って
 
久々に覗きに行くことにした。
 
こんな時間に来たことがないから、奥へと進む度に期待が募る。
 
人気のない公園。
 
子供の頃は、暗くなったら入っちゃ駄目よってよく注意された。
 
駄目だって言われると、したくなるのが、人間で。
 
夕方にここへ来ようとして、何度も叱られた。
 
中学生になってからは、なんの躊躇もなく入るようになってたけど
 
遊具の所にたむろして、奥へは行かなかったから
 
高校生になった今でも、奥へ行くのは少し緊張する。
 
子供の頃に刷り込まれた感覚ってのは、凄いもんだ。
 
薄暗い街灯。
 
白い光が見えれば、絶景まで、あと少し。
 
近くにベンチあったかな、とか掠れた記憶を辿っていると
 
急に叫び声が聞こえた。
 
女の、叫び声。
 
何かあったのかと思って身構えたが、すぐに気付く。

これは叫び声じゃなく、歌声。
 
女の、高く澄んだ歌声。
 
知識のない人が聞いたら、叫び声に聞こえるだろうけど
 
これは、立派なシャウトロックだ。
 
よく見ると、薄暗い街灯に照らされて、女の子が一人。
 
電飾のように輝く隣町に向かって、叫ぶように歌ってる。
 
隣町は、ずっと下の方だし、距離があるから
 
歌声は届かない。
 
誰かに聞かせるために歌ってるわけではないみたいだ。
 
普段、誰も立ち寄らないような公園だから、誰もいないと思って歌ってるのだろう。
 
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