LOVE*PANIC



修二が陽気な様子で車を走らせていくので、一歌は黙ったまま、窓の外の景色に目を向けた。


すると、突然車は徐行し始めた。


「ちょっと待ってて」


修二はコンビニの駐車場に車を停めると、颯爽と車を降りた。


一歌は車の中に一人残され、ぽつん、とラジオから流れる曲に耳を傾けた。


それは、有名アーティストの曲だった。


CMで毎日のように流れているそれは、サビのパートが一歌の耳にはしっかりと残っている。


一歌がぼんやりと過ごしていると、修二が突然戻ってきた。


「お待たせ」


修二は両手にビニール袋を下げている。


白い袋では、中に何が入っているのかは見えない。


「よし、行くか」


修二は袋を後部座席に置いてから、エンジンをかけた。


「あの、仕事の話は……」


「後でな」


修二は一歌の言葉を軽く流した。


一歌はやはり嘘だったのか、とシートに体重を預けた。


分かりきっていた為か、腹立たしさはない。


一歌は車の微かな揺れに身体を任せた。


ラジオからは、DJの話と曲が交互に流れる。


窓の外に流れる景色は、大量のビル。


DJは流暢にトークを続ける。


『続いては、恋をした、と感じる瞬間は?』


恋をした、と感じる瞬間。


一歌はそんなものはとっくに忘れてしまった、と思った。


がむしゃらにやってきて、そんな余裕はなかったのだ。


車の中には、ラジオの音だけが響く。


一歌と修二には、共通の話題、というものがない。


その為、どうしても無言になってしまうのだ。


一歌はその沈黙を、心地悪い、と感じることはなかった。


むしろ、無理に喋らなくてはならない空気より、余程よかった。


『一緒にいて、楽だと思う時。
あー、ありますね、そういうの』


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