LOVE*PANIC
「ありがとうございますっ」
一歌は修二に向かって、思い切り頭を下げた。
出てくる言葉はそれだけだった。
「え? 何っ?」
修二はあまりに突然の一歌の行動に驚きを隠せない声を出したが、一歌は頭を下げ続けた。
修二の言葉は、自分の為になる。
曖昧な言い方だが、本当のことだった。
修二と話をしていると、何故自分が今、こんな状態なのかが痛い程に分かった。
売れたい、そう思っている反面で、決め付けていたのだ。
違うんだ、と。
自分と成功している人は違う。
自分で勝手に、言い訳に似た限界を付けていただけだ。
無理でも仕方ない、と駄目な言い訳をずっと作っていた。
「本当にありがとうございます」
一歌はもう一度大きな声で修二に礼を告げた。
「ね、だから何なの?」
修二は相変わらず状況が分からずに、驚いた様子のままだ。
一歌はぱっと顔を上げ、笑顔を作った。
「何でもないです」
一歌が満面の笑みで言うと、修二は一瞬だけ表情を止めたが、一歌はそれに気付かなかった。
「いっちゃんて、意味不明で面白い」
修二は表情を元に戻してから、可笑しそうに笑った。
「い、意味不明、て何ですか?」
一歌の叫びにも似た声に、修二は更に笑った。
「あ、浅田さんの方が意味不明ですよ」
笑い続ける修二に一歌が拗ねながら返した。
「俺が意味不明?」
修二はぴたりと笑いを止め、不思議そうな表情を作った。
「はい。いきなり、恋愛してみない、なんて意味不明以外、何でもないじゃないですか」
一歌はそう答えながら、そうだ、と思った。