世界が終わる前に


「……あ、あのっ!」



ちょうどドリンクバーの真ん前まで来たところで、不意に思い出したのは“飲み物係”として最も重要な事。


決して忘れてちゃいけなかった重大な事。



「何?」


「えっと、あの、私……みんなが何、飲みたいか……ちゃんと聞いてなくて……」



こんなにも鈍臭い自分が本当に情けなくて、わざわざ来てくれた彼への申し訳なさから「ごめんなさい」と小さく謝った。



「あー…いや、別に全員同じもんでいいだろ」



彼は一瞬だけちらりとこちらに視線を移してすぐに逸らすと、呟くようにぼそりとそう言った。


続けて、ちょっと面倒臭そうな声色で「つか別にそんな事でいちいち謝らなくていい」と言いながら彼が矢継ぎ早にグラスに注いでいたのは、あきらかに私の苦手な“アイスコーヒー”で……。


どうやら彼がチョイスした“同じもん”は“アイスコーヒー”だったらしい。


やけに大人びた“彼らしい”チョイスだ、と妙に納得してしまった。


< 51 / 202 >

この作品をシェア

pagetop