彼岸と此岸の狭間にて
「子を持つ親にとって最大の喜びは子供の成長とその子の幸せ、最大の悲しみは『子供の死』。

その悲しみは何よりも堪え難い。どんな心のこもった言葉もお悔やみの言葉も気休めにはなるけど悲しみを埋める事は出来ない。

どんな形であれ、生きてて欲しいと思う」            
「……」                    
「最初、私は、脳だけでも生きていれば良いと思っていた。だが、今の葵の姿は本当に生きていると言えるのか!?

葵が夢を見ているのならそれで良い。でも、どんな夢を見ているのか聞いてみたい。葵の声が聞きたい。葵と話してみたい。

そんな事を考えるようになってきた」             

「……」                    


「そこで考えた、葵を再生できないかと!?」               


青柳が沈黙を破る。

「再生とは、もしかして『クローン(複製)』の事ですか?」

「そう。幸い、葵の体は損傷が少なく、クローンに必要な組織を十分に確保できた。そして、今日、渡辺先生から再生可能という電話を頂いた」                   
「でも、死んだ組織を培養する事は不可能ではないのですか?」

「普通はそうだ。でも、渡辺先生は癌治療の『キラー細胞理論』を遺伝子の分野に応用する事でそれを可能にする方法を見つけ出した!」                       
「えーっ、本当ですか?本当だとしたら物凄い発見じゃないですか!?ノーベル賞なんてぶっ飛んじゃいますよ!!」                   
「私も詳しくは知らないけど、細胞、特に、DNAの『自己増殖力』を利用するそうだが、ある一定の条件がある場合、死んだ組織のDNAを生きた組織のDNAに書き替える事が出来るんだそうだ」

「その条件とは?」               
「聞いたけど笑って教えてくれなかった…ただ…」             
「ただ…何です?」               
「今の葵の状態がベストとは言っていた」
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