彼岸と此岸の狭間にて
〔4〕         

「旦那様、表の浪人風の男がこれを…」                  
帳場で帳簿をいじっていた男が顔を上げる。                
「刀じゃないか!?」              
見覚えのない刀を手に取り、鞘を抜く。                  
「こ、こ、これは…!?」            
刀を手にしたまま、裸足で外に掛け出る。だが、外には浪人風の男の姿は既になかった。                                            
「冬吉!」                   
「はい、何でございましょう?」

「さっきの男はどんな身なりをしていた?」                      
「えらく汚れた着物にボサボサの髪…顔は異人のように見えましたが…」

「何か言ってなかったか?」

「いえ、何も。ただ、刀を渡すように、と…」            
「分かった…仕事に戻れ」            
(紫馬だ、紫馬葵に間違いない!あれから13年も経っているのに姿形が変わっていないとは…)                                        







「冬吉!」                   
「はい、旦那様!?」              
「これから出掛けるよ」             
「どちらへ?」                 
「不知火神社…」                 
「御供は?」                  
「いやひとりで良い。店の方を頼むよ、家内と力を合わせて…」

「えっ、何でございますか!?」

「別に何でもない!では、行ってくる」              
「お〜い、旦那様がお出かけだぞ!」                   

店の奥から奉公人が出て来て男を店の前で見送る。


男は右手に風呂敷包みを、左手にはあの刀を持っていた。
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