彼岸と此岸の狭間にて
「お母さん、地味じゃない!?」

「結婚式で花嫁よりあんたが目立ってどうするのよ?」

「そうかなあ、地味だと思うんだけど…」

「ほら、外にタクシー待たしてあるんだから…」

「えーっ、お父さんの車じゃないんだ!?」

「お父さん、お酒飲むでしょう!!」

「あっ、お兄ちゃんに報告してくる!」                              
美優はリビングの仏壇に近づいて正座すると、線香を上げ、手を合わせる。                               
「お兄ちゃん、今日は香澄ちゃんの結婚式だよ……私は、お兄ちゃんのお嫁さんは絶対香澄ちゃんと思っていたのに……

涙は縁起が悪いよね!……じゃあ、行って来るね…」                  

香澄の『バタバタ』と駆け出す音……

玄関のドアの『バタン』と閉まる音……

タクシーが『ブロロローッ』と走り去る音……

仏壇の笑う葵の写真………


残された物は…


ただ『静寂』…                                                                                                                                                              



そして、それから更に5年の月日が流れる。                            
東京のある教会                             
仲良く手をつないだ新郎と新婦が出て来る。                

「美優ちゃん、結婚おめでとう!!」「美優、おめでとう!」「美優!!!好きだったのに〜っ…」               

美優の両親の所にひとりの女性が歩み寄る。                
「美佐枝さん、この度はおめでとうございます!」              
「あらっ、香澄ちゃんのお母さん!どうもありがとうございます」

「美優ちゃん、綺麗ねぇ…でも、相手のお婿さんって、葵君に似てるような気がするんだけど…気のせいかしら…」
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