この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐
緑地の目の前にある白いアパート。
寝室の窓の前を通るとき
俺が横目で確認すると、部屋の灯りは既に消えていた。
暗い空に浮かぶ月の位置からして、もうかなり遅い時間帯だから
美代は待ちくたびれて寝たのかもしれない。
俺は美代を起こさないように静かにドアノブを回す。
玄関の鍵はあいていた。
俺のために鍵は締めなかったんだろうけど…
美代は相変わらず無用心だ。
そのまま寝室に向かうと、美代は布団の上でスヤスヤと眠っていた。
美代の寝顔に俺の口元が小さくゆるむ。
この寝顔を見守れる夜が
あと何回ぐらいあるんだろう
俺に残された時間はあとどれだけあるんだ…?
俺は静かに部屋着に着替えるとそっと美代の隣の布団に寝転んだ。
美代…
俺は一度寝転んだ体を少しだけ起こし美代の寝顔を見る。
窓からの月明かりだけの薄暗い部屋で
真夏の生ぬるい夜風がカーテンを時折揺らす。